小野の小町、几帳の陰に草紙を読んでいる。
そこへ突然黄泉の使が現れる。
黄泉の使は色の黒い若者。
しかも耳は兎の耳である。
小町 (驚きながら)誰です、あなたは?
使 黄泉の使です。
わたしは一天万乗の君でも容赦しない使なのです。
小町 あなたは情を知らないのですか?
わたしが今死んで御覧なさい。深草の少将はどうするでしょう?
少将はわたしの死んだことを聞けば、きっと歎き死に死んでしまうでしょう。
使 歎き死が出来れば仕合せです。とにかく一度は恋されたのですから、
……しかしそんなことはどうでもよろしい。さあ地獄へお伴しましょう。
使 何、地獄も考えるほど、悪いところではありません。
昔から名高い美人や才子はたいてい地獄へ行っています。
芥川龍之介「二人小町」より
2007年
56cm
ラドール・レーヨン・自作の目・布等
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